質疑応答では次のような発言がありました。
尾尻:オリンピック・パラリンピックでは、選手団に医師が同行すると思いますが、選手に病気が出たとき、同行してきた医師は、日本で治療ができるのでしょうか」
徳本:「免許関係は厚生労働省の医政局維持課が担当なので、私から正式な見解を述べることはできません。ただ、一般論として説明するなら、国内法に基づいて医師免許がありますので、海外の医師のライセンスを持った方がついてきても、日本国内で医療行為を行うことは認められていません。あくまでアドバイザーとして活動していただき、必要であれば国内の医療機関を受診していただく、ということになります」
邉見公雄(公益社団法人全国自治体病院協議会会長):「オリンピック・パラリンピックでは、選手村の中くらいは、同行してきた医師が診療を行えるようにしたほうがよいのではないでしょうか。選手村は治外法権でよいのではありませんか」
浅沼:「選手に対する治療はアンチ・ドーピングの問題もからんできます。投与した薬によって、メダル剥奪や出場できないといったことになれば、国際問題になってしまいます。おそらく事前に調整することが必要で、IOC、JOC、文部科学省、オリンピック・パラリンピック事務局などと厚生労働省の医療関係部局が、どのように調整するのかということが課題になってくると思います」
原田:「沖縄ではしかの感染があったように、すでに廃絶された感染症が、外国から持ち込まれることが実際に起きています。今回の感染は心配ないのでしょうか」
三宅:「感染源となった台湾からの観光客は、人通りの多いところを歩いています。ちょうど春休みで全国から人が集まっていたため、飛び火しやすい状態だったのです。そこで感染症の特別な訓練を受けたチームを沖縄に派遣し、4月11日には全国に通知を出しました。はしかはすでに日本から廃絶されていて、98%の人が免疫を持っているので、それほど大きく広がることはありません。あとは症状がある人を見つけ出し、その周囲の人に予防接種をするなどして、抑え込んでいくことになります」
邉見:「医療通訳についてですが、阪神淡路大震災のとき、兵庫県で医療通訳の問題で大変苦労しました。その後、県知事と相談しまして、ボランティアとして医療通訳を育てていくことになりました。医療通訳は命に関わる問題で、このままでよいとも思えません。厚生労働省の考えをお聞きしたいのですが」
徳本:「医療通訳の費用は、基本的には受益者負担と考えています。この場合の受益者とは、医療を受ける外国人が受益者であることは間違いありません。さらに、医療機関にとっては、言葉が通じないと診療に2倍も3倍も時間がかかりますが、通訳者がいればそれを防げます。つまり、機会損失が減るという意味で、医療機関も受益者といえるかもしれません。多くの医療機関が電話通訳を使ったことがないようなので、ぜひこのサービスを使っていただきたいと思います。電話通訳業者との団体契約を補助するということもやっています。また、訪日外国人は自由診療の枠で診療を行うので、訪日外国人の患者が多い医療機関であれば、診療報酬と同じ金額を取るのではなく、それなりにかかるコストを取っていただくべきだと考えています。調査すると、83%の医療機関が、訪日外国人に対して1点10円で取っています。ところが、年間500人以上の外国人を診療している医療機関だと、50%程度が1点20円以上取っています。外国人診療に慣れているところは、それに見合うコストをしっかりとっている、ということだと思います」
邉見:「JMIPはいろいろ手間がかかる割に、それに対する見返りがほとんどありません。何とかできないのでしょうか」
徳本:「JMIPに見返りを、ということですが、なかなか難しいと思います。JMIPの認証を受けて外国人患者が来ることがビジネス的にプラスだ、というようになる環境づくりが必要だと思います」
瀬戸皖一(一般社団法人脳神経疾患研究所付属南東北病院口腔がん治療センター長・BNCT企画開発本部長):「当院では外国から患者さんを受け入れていますが、最も多いのは中国人です。現在、非常に困っているのは、中国の病院と連絡が取りにくいことです。治療後のフォローをしていただく必要がありますが、中国では患者さんを紹介するということをあまり行わないようです。もう少し国際的なパイプがあってもよいのではないかと思います」
徳本:「JTBやEAJなど、外国の患者さんを紹介するビジネスを行っているところがありますので、そういったところを活用していただくという方法があると思います。先生がおっしゃったことはとても重要で、日本で治療を受けた患者さんが、しっかりフォローしてもらえる体制を整えていく必要があると思います」
土屋了介(地方独立行政法人神奈川県立病院機構前理事長):「私はがん研究会の外部理事をしていますので、ご参考までに、がん研の現状を紹介します。訪日外国人の患者さんを年間300人ほど治療していますが、いわゆるブローカーは通さない方針です。中国の深圳に北京大学深圳病院がありますが、そこの若い医師と看護師の研修を、すでに60~70人ほど受け入れています。その方たちが帰国し、こちらで治療した人のフォローを行ってくれています。ほとんどが成功しています。また、日本で訪日外国人の診療を行う場合には、診療報酬の点数の3倍をいただいています。民間病院ですので、採算が合わないと困るのでそうしています。通訳は基本的には向こうから連れてきていただき、夜間などは電話通訳を使っています。そのために一律4万円をいただいています。ご参考になればと思います。この話とは別に、テロに関してお願いがあります。地下鉄サリン事件当時、私は国立がんセンター中央病院で、テロにあった患者さんの手当てに当たりました。そのときに最も困ったのは、何が原因だかわからなかったことです。そこで、たとえば厚生労働省のホームページを開いておき、そこで新しい情報を見られるようにしておくとよいのではないかと思います。電話回線はすぐにいっぱいになって使えなくなると思いますので。ここを見れば最新の情報が得られるという方法を考えていただきたいと思います」
浅沼:「地下鉄サリン事件から得られた教訓は、原因がわかったら一刻も早くそれを現場に知らせる、ということです。ホームページもいい方法ですが、厚生労働省はツイッターも始めています。情報発信の武器がいろいろあるので、それらを駆使し、情報発信のスピードアップを図ることが、オリンピック・パラリンピックに向けて重要な課題であると考えています。貴重な提言をありがとうございました」
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