日本の医療の未来を考える会

第76回 適切な労務管理による働き方改革 地域の医療体制の維持に国も支援 (厚生労働省医政局医事課 医師等医療従事者働き方改革推進室 佐々木康輔室長)

第76回 適切な労務管理による働き方改革 地域の医療体制の維持に国も支援 (厚生労働省医政局医事課 医師等医療従事者働き方改革推進室 佐々木康輔室長)

質疑応答

尾尻 働き方改革には医師や患者から賛否両論の声が届いていると思いますが、厚生労働省は今後、どの様に理解を得て行くのでしょうか。

佐々木 労働時間を制限して、今迄通りに患者に対応出来るのか、又、手術の手技等を磨く時間が減り、診療のレベルが下がるのではないかといったご懸念の声を頂き、理解を得るのも困難がございました。しかし、実際に働き過ぎで心筋梗塞等を発症して健康を害する方もいらっしゃいます。疲労の為、診療や手術で集中力が落ちてしまう様な事が有ってもいけません。地域の医療に影響が無い様に各医療機関の準備状況や労働時間の実態を調査し、医師の皆さんの理解を得ながら改革を進めて行きたいと考えています。

炭山嘉伸・東邦大学理事長 私が会長を務める私立医科大学協会でも、厚生労働省や文部科学省と協力して私立医大に関するアンケートを計画しています。私立大学病院は地域に医師を派遣する等地域医療に貢献していますが、医療に関わる時間が増える一方で、教育や研究の時間が減っている。こうした状況を改善しなければなりません。又、労務管理では自己研鑽の判定基準や、宿日直の運用についても実態を把握する必要が有ると思っています。一方、私立医大では女子学生が急増しており、女子学生が半数を超えている大学も半数を超えています。働き方改革を進めるには、女性医師が働き易い環境を更に整備して行く事も欠かせません。こうしたアンケートの実施を通じて、現場の実態を把握し、国や日本医師会とも一緒になって働き方改革を推進して行かなければならないと思っています。

宮本隆司・社会福祉法人児玉新生会児玉経堂病院病院長 労働時間を制限するという事ですが、海外でも労働時間の上限を定めているのでしょうか。日本で労働時間の短縮を進めて行くには、タスクシフトやチーム医療は絶対に必要で、主治医に頼り切る患者の意識も変えて行く必要が有る。そうした労働時間の削減に必要な環境整備への取り組みについても教えて下さい。

佐々木 厚生労働省が18年に、海外に於ける医師の労働時間規制について調べた事が有ります。その時の報告によると、米国では労働時間の規制はございませんでしたが、英独仏では実労働時間の上限規制が設けられています。それぞれ国によって法律や医療システムが異なる為、単純な比較は難しいのですが、日本の現状は医師の皆さんの献身的な診療行為によって医療が支えられている一方で、医師が健康を害するリスクも有る為、勤務環境改善を行って行く必要が有ります。労働時間の上限規制に当たっては、長時間労働になっている原因を整理し、対策を講じる事が必要であり、仰る通りタスクシフトやチーム医療を推進して行く事が必要だと思っています。こうした勤務環境の改善には国民の皆様の理解が重要な事もご指摘の通りで、診療時間内での受診や複数主治医制に対する理解の呼び掛けを今後も進めて行きます。

荏原太・医療法人すこやか高田中央病院糖尿病・代謝内科診療部長・教育企画管理部長 ドイツやデンマーク等では、医師を確保する為に外国人医師を受け入れて医療体制を維持しているという側面も有ります。日本では、外国人医師の受け入れについてどの程度議論しているのでしょうか。又、働き方改革が中小の病院を中心に、どの程度病院経営に影響を及ぼすのか、国ではシミュレーションを行っているのでしょうか。働き方改革が地域医療に及ぼす影響をどの様に評価するのかを教えて下さい。

佐々木 外国人医師の受け入れについては、日本の場合、やはり言語の壁が診療の際の大きな課題になると思います。その為、医師の確保や環境改善の為に、外国人医師を受け入れるという議論は、実はそれ程活発ではなく、どちらかと言うと医師養成過程を通じた偏在対策や、都道府県の医師確保計画等を通じて、医師確保を行っています。中小病院や地域医療への影響については、準備状況調査を踏まえながら、1つ1つ現状や課題を確認し、都道府県と連携しながら対策を行っています。病院の地域での役割を踏まえて、必要に応じて地域の大学病院に協力を依頼する等により、地域医療に大きな影響が出ない様に対策を講じています。

小松本悟・日本赤十字社栃木県支部足利赤十字病院名誉院長 医療現場のタスクシフト、タスクシェアを進めないと医師の勤務時間は減らない。今の医師は昔に比べて、医療以外の仕事が増え、作成しなければならない書類も多い。私達の病院では医師事務作業補助体制加算を利用する一方で、書類作成の補助者や診療情報管理士を育成しています。これは殆どの医師から賛同を得ています。今後、診療報酬の中で医師事務作業補助体制加算の点数をもう少し上げたり、診療情報管理士の育成に対する補助金制度を設けたりすれば、各病院も補助者の育成に前向きになり、医師の業務量の軽減に繋がると思います。

大友康裕・国立病院機構災害医療センター病院長 地方には医師不足で長時間労働にならざるを得ない病院も多い。そこへ労働時間の上限規制を導入すると、医師不足や診療科の偏在に拍車が掛かり地域医療が破綻する恐れが有ると思います。現状の調査を基に、都道府県が調整するとの事ですが、医師が不足している地域に対し、具体的にどの様な対策を講じるのでしょうか。

佐々木 働き方改革にも関連する問題として、地域や診療科の偏在対策も喫緊の課題です。働き方改革と医師の偏在対策、地域医療構想は一体的に進めなければならないと考えています。医師確保策については、各都道府県で計画を立てて進めています。又、働き方改革により医療提供体制に影響が起こり得ると懸念される地域では、必要に応じて都道府県と厚生労働省が個別に病院等と面談をして、対策を検討しています。例えば心臓血管外科の医師が足りなくなるといった場合には、救急や循環器内科、麻酔科医師によってタスクシフト・シェア出来るのではないかといった助言・議論を交わす事や、必要な場合には大学からも医師派遣等で協力頂いている例も有り、個別に地道な調整・議論を行っています。

石渡勇・医療法人石渡会石渡産婦人科医院院長、公益社団法人日本産婦人科医会会長 日本の周産期医療は世界でトップクラスの水準を保っています。その要因は、1次から3次迄の医療機関がしっかり機能分担し、連携している事が挙げられます。特に分娩の約半分は産科診療所が担っています。しかし、産科診療所の現場は非常に厳しく、緊急時には大学病院や周産期母子医療センターの若い医師に当直をお願いして対応しています。又、分娩件数の減少で診療所の経営も難しい。こうした中、地域医療を支えている個人病院に対する公的な支援は殆ど無く、企業努力も限界に来ている状況について、国はどの様に考えているのでしょうか。

佐々木 働き方改革で、真っ先に影響が懸念された領域の1つが産科でした。産科医の皆様の努力で日本の周産期医療が世界トップクラスの水準を保っているのは事実で、今後も水準を保って行かなければなりません。医師の働き方改革についても、産科の先生方とも十分議論を交わしながら進めておりますし、この場で、公的支援について明確な答えをお示しするのは難しいのですが、今後も現場の先生の意見を聞きながら、議論を進めて行きます。

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