日本の医療の未来を考える会

第80回 地域包括医療病棟入院料の活用へ ケアミックス推進のポイントとは(東京都健康⻑寿医療センター・診療情報管理室保険指導専⾨部⻑ 葦沢⿓⼈氏)

第80回 地域包括医療病棟入院料の活用へ ケアミックス推進のポイントとは(東京都健康⻑寿医療センター・診療情報管理室保険指導専⾨部⻑ 葦沢⿓⼈氏)
医師の働き方改革や医療DXへの対応が注目された2024年の診療報酬改定では、高齢者の軽症・中等症疾患への対応を強化する為に「地域包括医療病棟入院料」が新設された。救急患者等を受け入れると共に、リハビリや栄養管理、在宅復帰等の機能を担う病棟に対する報酬だが、現場からは戸惑いの声も聞かれる。病院のデータを分析しながら地域包括医療病棟入院料の導入を踏まえながらケアミックスを上手く活用し、経営改善を図っている東京都健康長寿医療センター・診療情報管理室保険指導専門部長の葦沢龍人氏に「データで考えるケアミックス」と題し、データ分析の手法や制度活用のポイント等について講演して頂いた。

挨拶

原田 義昭氏 「日本の医療の未来を考える会」最高顧問(元環境大臣、弁護士):今回のテーマは「データで考えるケアミックス」ですが、私は以前、厚生省(当時)の政務次官を務めていた事が有り、厚生行政の中で分析統計というものが如何に難しく、数字が行政にとって大事なものであるかは理解しているつもりです。早80回を数えるこの勉強会で、改めてしっかりと勉強出来る事を最高顧問として心から誇りに思っています。

三ッ林 裕巳氏  「日本の医療の未来を考える会」国会議員団代表(衆議院議員、元内閣府副大臣):医療費の抑制や効率的な医療提供の観点からもケアミックスという施設形態には大いに関心が集まっています。有機的な連携の構築等の課題も有ると言われていますが、地域住民・患者の生活を支える視点から実情に応じた地域医療の将来を考える上で、葦沢先生の本日の講演が学びの深いものとなる事を期待しています。

東 国幹氏 「日本の医療の未来を考える会」国会議員団メンバー(衆議院議員):私の地元の北海道も大変な暑さが9月まで続く様になりました。ところが、9月を過ぎると冷え込み始め、高齢者を中心に、急激な気候の変化に対し、如何に健康を保って行くのかが課題となっています。地域によって異なる課題が有りますが、医療と福祉の向上を支えるのは診療報酬です。制度がより良いものになる様、しっかりと汗をかいて行きます。

和田 政宗氏 「日本の医療の未来を考える会」国会議員団メンバー(参議院議員):自民党で来年度予算の概算要求の議論が始まりました。財務省はシーリングといって上限を設けたがるのですが、私達は物価上昇分を反映しなければ実質的な減額になると主張し、激論を交わしました。医療の発展だけではなく、科学技術宇宙政策の面でも、日本で最先端技術が開発され、技術立国としての地位を高められる様、予算を確保して行きます。

伊佐 進一氏 「日本の医療の未来を考える会」国会議員団メンバー(衆議院議員):今年6月に政府の骨太の方針が決定し、その中に予算編成について「経済・物価動向等に配慮する」と書き込まれました。ところが財務省は来年度予算編成で、「事業予算が膨らむのなら、他の局から予算を持って来る様に」と言っています。これでは物価の上昇に配慮している事にならず話が違う。骨太の方針を武器に、必要な予算確保に取り組みます。

尾尻 佳津典 「日本の医療の未来を考える会」代表(『集中』発行人):10年程前、厚労省の幹部に診療報酬の改定が2年毎というのは頻繁過ぎませんかと尋ねたところ、国の医療政策を導入するという目的もあり、2年毎が寧ろ好ましいという返答がありました。振り返ると、確かに診療報酬改定の度に国の政策が見えて来ます。あれから数回の改定が行われましたが、患者満足度を高める改定になっている事を願います。

講演採録

■適切な医療資源の投入が目的

今年の診療報酬改定で、厚生労働省は「地域包括医療病棟」という制度を新設しました。これは、今後急性期の病院の経営が困難になって行く事を踏まえた上での提案だろうと私は理解しています。

こうした提案に対して、自分達の病院の立ち位置を見ながら、どの様に活用出来るのかという点を、私が所属する東京都健康長寿医療センターのデータ等を紹介しながら説明します。このデータ解析の方法を見て、皆さんの医療機関が地域包括医療病棟を導入する際の参考にして頂ければと思います。

我が国の入院医療制度の現状ですが、2017年の厚生労働省中医協の資料で、一般病床は約89万床となっています。一般病棟が約61万床、この内包括払い方式(DPC/PDPS)の病床は約48万床在ります。つまり診療報酬上、急性期の一般入院基本料に該当する病床の約85%をDPC/PDPSの病床が占めている。という事は、急性期病院では今後、こうした現状に加えて地域包括医療病棟と回復期病棟等を組み合わせてケアミックスを実現して行く必要が有るのだろうと思います。

DPC/PDPS病院の診療報酬は「包括評価部分」と「出来高評価部分」に分かれています。前者には入院基本料や検査・画像診断、投薬・注射、1000点未満の処置等が含まれ、ここに時間や手間を費やしても報酬は増えません。一方、後者には手術や麻酔、放射線治療、1000点以上の処置等が含まれます。要するにDPC病院が利益を出す為には、包括評価部分の日常的な対応を減らし、出来高払いの手術等の数を増やせばいい訳です。更に、包括評価部分の点数には、医療機関別に係数が掛けられます。係数は医療機関の体制や役割、機能によって決められますので、私は係数の中の役割や機能が評価される「機能評価係数Ⅱ」を、“前年度診療の通信簿”と呼んでいます。

又、18年の診療報酬改定で、「個々の患者の状態に応じて適切に医療資源が投入され、より効果的・効率的に質の高い医療が提供される事が望ましい」「患者の状態や医療内容に応じた医療資源の投入がなされないと粗診粗療となる恐れが有る」という考え方が示されました。「医療資源の投入量」とは、看護職員の配置基準で言えば、2対1、7対1、10対1、13対1等の事を指します。つまり患者の重症度、医療・看護必要度に応じて医療資源を投入すべきなのです。

只、当時の7対1と10対1の診療報酬の点数を比較すると、7対1の方が204点高かった。そこで18年の改定では、7対1と10対1の入院料の再編・統合が行われました。具体的には7対1の入院料の区分を1〜3に分け、入院料1から入院料の点数差が少ない2〜3(10対1)へ誘導する様に設定しました。これに対し従来10対1だった病床(入院4)からは2、3への移行が出来ない為、無理に入院料1に移行するという事が起きました。これは、厚労省も想定していない事態でした。厚労省の目的は点数の高い入院料1の病床数を減らす事でしたから、入院料2〜3への移行を促す為、今回は基準を更に厳しくし、一般病棟の重症度、医療・看護必要度の評価項目が見直されました。この意味するところは、救急や手術、がん治療への評価です。これは従来から変わりませんが、急性期の病院、特にDPC病院では、救急、手術、がん治療を行わずに経営は維持出来ません。これが、厚労省の現在の方向性です。

■看護配置と日当円を考慮

地域包括医療病棟で提供される医療とは、救急患者を受け入れ、急性期を速やかに離脱した上で、早期の退院に向けてリハビリや栄養管理をし、早期の在宅復帰を目指すというものです。その背景には、「高齢者の救急搬送が増えている一方、病院の医療資源投入量とのミスマッチにより栄養状態の不良やADL(日常生活動作)の低下が見られる」という問題意識が有ります。そこで「地域に於いて救急患者等を受け入れる体制を整え、リハビリテーション、栄養管理、入退院支援、在宅復帰等の機能を包括的に担う」という目的で、地域包括医療病棟が新設される事になりました。同病棟入院料では1日当たり3050点が付きます。これは急性期一般入院料1の1688点や地域包括ケア病棟入院料1の2838点に比べると、中々の大盤振る舞いです。又、地域包括医療病棟の包括範囲には、心臓カテーテル検査や内視鏡検査、画像診断管理加算、リハビリテーション、手術や麻酔等の費用は含まれていません。こうした処置は全て別途算定が可能です。しかし、この新たな病棟をケアミックスとして導入出来ない、病院が有ります。それらは特定機能病院、急性期充実体制加算を算定する病院、総合入院体制加算の1から3を算定する病院、専門病院入院基本料を算定する病院等です。つまり今回の制度は一般病院を対象にしているという事です。

ケアミックスの病院は、ICU(集中治療室)やSCU(脳卒中集中治療室)、HCU(高度治療室)等、高度急性期医療を提供する病棟から、急性期一般病棟、亜急性期医療・回復期医療の病棟、慢性期医療病棟に分かれて機能を分担します。それぞれ、看護配置や日当円が異なり、地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟は亜急性期医療・回復期医療病棟に含まれます。ここで注意して頂きたいのは、患者を入院させる際には、高度急性期から急性期、回復期という順番で、よりスペックの高い病床から患者の受け入れを考えるという事です。

一方、回復期リハビリ病棟だった病院が、後に急性期病棟を併設すると、従来のスペックの低い病床から埋める事を優先する場合が有ります。しかし、これでは患者が適切な医療を受けられない恐れが有ります。所謂「なんちゃって急性期」です。こうした運用は決して患者の為にならないので、止めて頂きたいと思います。そして、この様な不適切な運用が起きない為にも、入院患者の受け入れを一括して管理するコントロールタワーの様な存在が必要だと思います。具体例として、東京都健康長寿医療センターのデータを紹介します。当センターの機能としては、550床のケアミックスの病院で、ICU、SCUが有り、7対1の急性期一般病棟に417床が有って、26床の地域包括ケア病棟が有ります。DPCデータは医療機関別係数が1.4373です。機能評価係数Ⅱが0.0838と全国平均を上回っていますが、この内、複雑性係数は平均を下回っています。これは、医療資源投与の大きい、難しい外科手術の少ない事が第1の原因として考えられます。病床稼働率は72%から80%台前半で85%は中々超えません。DPC入院期間Ⅱを超える割合は30%未満を目標にしていますが、30%台前半で推移しています。

こうした現状を踏まえ、地域包括医療病棟の導入を検討したところ、急性期病棟(7対1)の重症度、医療・看護必要度Ⅱの新基準(①、②)はクリアしているものの、基準を下回る病棟が半分有る事が分かりました。何故クリアしているかと言うと、血液内科で骨髄移植を行っているからです。言い換えると、平均の数字を底上げしてくれる血液内科の医師が不在になった場合、基準を維持出来なくなる可能性が高いという事です。当センターの周辺環境は、車で10分程の範囲内に特定機能病院2院や公立病院2院等が在り、競争は激しい。医師など人材の確保も容易ではありません。

これらの課題と現状を踏まえると、今後の経営を維持するには、病床の縮小か更なるケアミックスの導入のどちらかが必須になります。しかし、東京都の病院としては病床の縮小は避けたい。そこで、地域包括医療病棟の導入について更に検討して行く事になりました。

■入院患者の一元管理が不可欠

病院の経営状況を検証・把握した後に考えるべき事は、地域包括医療病棟にどの様な患者を入院させる事が病院経営上合理的かという事です。この時重要な点は患者の重症度と、患者を入院させる病棟でどの程度の診療報酬が得られるのか、つまり日当円がどの位になるのかという事です。入院当初ではDPCコードの14桁は決め難いと思いますが、6桁迄、つまり患者の何処(どの臓器)が悪いのか、という点については概ね判断が出来ると思います。23年のデータを基に、7対1病棟の患者を地域医療包括病棟に入れた場合、算定がどの様になるのかを緊急入院(16疾患)及び予定入院(10疾患)について比較試算してみました。

先ずMDC6桁で疾患を区分し、緊急入院の事例について試算したところ、16疾患全てで地域包括医療病棟の方が僅かに多いという結果になりました。その差は本当に極僅かで、下回る事は無い、というレベルです。次に予定入院の10疾患について試算したところ、DPCの方が収益性の高い疾患が7つを占めました。これを私なりに解釈すると、一般に高齢者は合併症の有る事が多いので、緊急入院の場合、DCPコードが同様でも予定入院より入院期間が長くなりがちです。DPCでは入院期間が長くなる程、診療報酬(日当円)が下がりますから、地域包括医療病棟の方の収益性が高くなった可能性が有ります。

次にDPCコード14桁で疾患を分類し、どの様な患者を地域包括医療病棟に振り分けたら良いのかを、疾患毎に検討しました。日当円が低い症例(患者)は、恐らく重症度が低く手間の掛からない可能性が高いと言えます。そこで、従来のデータから日当円の安い疾病で年間10症例以上有るものを抽出してみました。その中から、膀胱腫瘍手術(TUR)やシャントの血栓除去術、下肢静脈瘤手術なら重症度、医療・看護必要度(C項目)の面からも地域包括医療病棟(10対1)で受け入れられる可能性が有ります。他には鼠径ヘルニアの手術や経尿道的尿路結石の除去術、手根管開放術や結腸のESD(C項目)、貧血に対する輸血(A項目)も使えそうです。この様に考えると、皆さんの病院でも実際に使える症例が有るのではないでしょうか。3050点の診療報酬を考慮すれば地域包括医療病棟使い道が出て来るかも知れません。是非、この様なデータ分析を皆さんの病院でも検討してみて下さい。今回、ご紹介したデータは東京都健康長寿医療センターに入院した患者という大きなバイアスが掛かっています。診療科の違いにより入院患者の数字も変わりますから、どの病院にも当てはまる客観的なデータとは言えません。最初はMDC6桁で症例を分けてから分析してみて下さい。実際の患者データの分析は、これからの急性期病棟(7対1)の取り扱い(維持か縮小か)や地域包括医療病棟の導入等の判断の一助になる筈です。

まとめになりますが、合理的なケアミックスの運用の為には、優先度を決め患者データを基に考える必要が有ります。スペックのより高い病棟の稼働を優先し、稼働率、DPC入院期間Ⅱ超率、平均在院日数及び重症度、医療・看護必要度等のデータを常に見る事が極めて重要ですし、日当円を考慮する事も忘れてはなりません。更に、必要な医師や医療者を確保出来るかという点も重要です。特に地域包括医療病棟の導入では理学・作業・言語聴覚の各療法士や管理栄養士の確保は必須です。そして、最も重要な事は入院と転棟の一元管理です。管理部門の強いガバナンスが必要であり、そこには医師を必ず参加させて下さい。

質疑応答

尾尻 医療機関別係数の話が有りましたが、これは優秀な病院が増えると、国の医療費が増える事にはならないのですか。

葦沢 評価は相対評価なので、評価が上がる病院があれば、その分評価が下がる病院が有ります。一番分かり易いのは、大学病院本院群の82病院で、41病院の評価が上がれば、残りの41病院の評価は下がります。

土屋了介・公益財団法人ときわ会顧問 確かに地域包括医療病棟を導入すると、収入がかなり増えそうですが、今の物価や賃金の上昇を考えると、それを補う事が出来るのか、疑問に感じました。

葦沢 厚労省が地域包括医療病棟を出したのは、恐らく7対1配置の対象になる患者が減って行くので、「経費を削減する為に配置数の少ない10対1にしてはどうか」という提案だと思います。病院のデータを分析すれば、従来7対1で対応していた患者の一部を、地域包括医療病棟で受け入れるという活用法が見えて来るのではないか、ケアミックスを上手く活用出来れば、病院の経費を下げながら今の患者数を維持出来るのではないかと思っています。

宮本隆司・社会福祉法人児玉新生会児玉経堂病院病院長 療養型病院でも、地域包括医療病棟の設置は可能でしょうか。厚労省はどの様な方針で、この病棟を拡大して行こうとしているのでしょうか。最近はインフルエンザやコロナの患者を急性期の病院に紹介しても断られる事が多い。そうした患者を受け入れる為に、活用出来ないかと思ったのですが。

葦沢 厚労省が、この制度について回復期や療養期の病院を想定しているとは思えません。「なんちゃって急性期」になってしまう恐れが有り、止めるべきだと思います。やるのであれば、別に急性期病院を持った方がいいでしょう。現状に対する悩みは理解出来ますが、地域包括医療病棟の活用は解決に適さないので、10対1の看護配置を考えた方が良いかもしれません。

荏原太・医療法人すこやか高田中央病院糖尿病・代謝内科診療部長教育企画管理部長 厚労省がデータを基に検討しているのであれば、医療再編の中でどの位の病院が潰れるのかと言う事もシミュレーションしている様な気がします。人口減の中、果たして厚労省の今のやり方で大丈夫なのかという不安も感じます。

葦沢 厚労省は病院数ではなく、病床数を減らしましょうと言っていると理解した方が良いと思います。今、患者の間では、出来るだけ専門病院で治療を受けたいという傾向が見られます。私も30年前は100床未満の病院でも結構手術をしていましたが、今は患者がそれを望みません。一方、日本の病院の70%以上は200床未満です。そうした病院を存続させて行くには、病床を減らすかケアミックスの推進しかないと思います。22年のOECDのデータによると、日本の1000人当たりの病床数(12.6)はアメリカ(2.9)の4倍以上で、平均在院日数(16日)はアメリカ(5.9日)の2.5倍以上です。しかし、日本の1000人当たりの医師数(2.6人)は、アメリカ(2.7人)より少ない。こうした問題点は、厚労省と保険医療機関側の双方で考えて行かなければならないと思っています。

舩津到・医療法人社団三医会鶴川記念病院理事長 自分で病院のデータを分析し、疾患を振り分けるのはそう簡単では有りません。先生は、その様な悩みを持つ病院向けに講習会等を行う予定は有りますか。

葦沢 データ解析の考え方は一般化出来ても、解析そのものは病院個別のデータに基づく必要が有ります。講演には何時でもお伺いしたいと考えておりますが、事前に依頼元のデータを頂けますと、より正確なお話が出来ると思います。

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