和田 政宗氏 「日本の医療の未来を考える会」国会議員団メンバー(参議院議員)私も「カンナビジオールの活用を考える議員連盟」に参加していますが、産業育成の観点から大麻の利活用を進める為、法改正が必要だという方向で議論が進められています。日本の場合、神事にも大麻が使われていますので、こうした分野での活用も必要です。医療面での大麻の利活用についても学び、今後の法律の立案に生かして行きたいと思います。
尾尻 佳津典 「日本の医療の未来を考える会」代表(『集中』発行人)今日は「医療用大麻」の世界的な研究者であるお2人に遠路遙々お越しを頂きました。日本では大麻の言葉に敏感に反応をしますが、世界に目を向ければ医療用大麻はこれからの医療に欠かせません。その証拠に、今回、講師をして下さるイーサン教授の研究所は巨額な金額で買収されています。世界は患者の利益の為に医療用大麻の導入は進んでいます。
講演採録
講師:マラ・ビリーバイキッジ
■古くから薬として活用されて来た大麻
2018年にカナダは世界で初めて医療用と娯楽用の両方で大麻を合法化しました。大麻と聞くとCBDやTHCという言葉を思い出すでしょうが、CBDには精神に対する作用が有りません。一方、THCは「ハイ」になる成分です。麻にもTHCが含まれていますが、非常に濃度が低い。大麻の葉や茎、根、種子にもTHCやCBDが含まれていますが、非常に微量です。
大麻の薬物成分は花や蕾、特に花の腺毛状突起に有ります。THC、CBD、CBG以外のカンナビノイドが含まれ、テルペンやフラボノイドも存在します。大麻の香りや色、味は、こうした様々な物質によって形成され、CBDやTHCだけで様々な効果を引き起こす訳ではありません。
大麻は古くから薬として使われて来ました。例えば、古代中国の伝承に登場する王は、大麻を薬として扱ったと伝えられています。1840年代には、食欲を増進し、睡眠を助ける効果が大麻に有る事をフランスの精神科医が発見します。そして50年代には、米国で神経痛や破傷風、麻薬中毒、痙攣性疾患の薬として使用される様になりました。1900年代には、南アジアで喘息や気管支炎、食欲減退の改善に使われ、30年代に米国の製薬会社が大麻を医薬品として販売し始めました。しかし、間も無くアスピリンやモルヒネ等の薬が登場し、大麻はあまり使用されなくなります。そして、米国の薬局方からも削除されました。
ところが、64年にラファエル・メコーラム博士がTHCを発見し、再び医薬品として大麻が注目される様になります。その後、大麻についての研究が進み、96年にカリフォルニア州で医療用大麻が米国で初めて合法化されました。99年にはカナダ保健省が医療用大麻の研究に資金を出す事を発表し、2018年にはFDAも大麻をベースとしたエピディオレックスを医薬品として承認します。これはレノックス・ガストー症候群とドラベ症候群(2歳以上)の薬です。トランプ大統領が産業用大麻を合法化する法案に署名したのは同じ18年で、22年には米議会下院で大麻の非犯罪化法が成立しました。この間、東南アジアでもタイが医療用大麻を合法化しています。
現在では、大麻草の成分であるカンナビノイドの研究が進み、数多くの成分が発見されましたが、1990年代に体内で生成される内因性カンナビノイドが発見され、体中の至る所に受容体が有る事が分かって来ました。内因性カンナビノイドは、大麻と同じ成分で、人の健康の維持に大きく関わっています。
大麻に効果と副作用が有るのは他の薬と同様です。多くの人は、快楽を求める為に大麻を必要とすると考えがちですが、実際は多くの患者が薬としての大麻を求めています。中毒が問題視されますが、現実には中毒率は約9%とされます。それに医療用大麻と多幸感や気分の高揚を求める娯楽用大麻は目的が全く違います。英国の精神科医が、医薬品や嗜好品等の健康への影響や依存度を調べたところ、最も危険度の高い薬はヘロインやコカインで、大麻は中程度でした。そしてアルコールや煙草の方が危険度は高かった。2023年のWHOの報告でも、煙草とアルコールによって多くの人が命を落としていますが、大麻の過剰摂取による死亡例は記録に有りません。
実際に、今は幾つかの医薬品に大麻から抽出されたCBDやTHCが使われています。サティベックスという薬は、多発性硬化症の治療薬としてカナダやニュージーランドで承認され、カナダでは慢性神経障害性疼痛にも使われています。一般的な医療用大麻の効果としては、先ず痛みの緩和が挙げられます。関節炎、多発性硬化症、がん等が有りますが、最も多いのは頭痛の軽減です。次が精神疾患で、不安や鬱、不眠症等です。投与法もクリームやソフトジェル、経口スプレー、吸入など様々です。
医師による臨床試験もタイ等で実施されています。対象の疾病や症状には、不眠症やがん患者の痛みの緩和、不安の抑制、鬱等が有ります。WHOによると、がん患者の55〜95%が痛みの緩和に苦労し、不安に苦しんでいる人は2億7500万人います。こうした痛みや不安を和らげる選択肢としては、ベンゾジアゼピン系という薬も有りますが、これには、高齢者の認知機能の低下や呼吸抑制、依存性といった副作用が有ります。抗鬱剤も副作用が有り、副作用の為に服用を中止する事もよく有ります。オピオイドも同様です。
これに対し、副作用の少ない大麻から作られた医薬品は、世界中で売り上げを伸ばしています。エピディオレックスの全世界での売上高は年間17億ドルです。サティベックスは年間1億5000万〜2億ドル、今後も更に拡大すると見られています。大麻について更に研究を深め、合法化して行く事が大切です。やはり何よりも自然が一番で、自然のものより病気を改善させるものは無いと思います。
講師:イーサン・ルッソ
■6億年前から生物の体内に存在
カンナビノイドには内因性、植物性、合成カンナビノイドの3種類が有ります。内因性のカンナビノイドは人の体に元々備わっている恒常性調節因子です。
これらは中枢神経や消化器、四肢、皮膚等に存在しています。カンナビノイドは受容体と結合し、大麻の成分と同様の効果を発揮します。こうしたカンナビノイドと受容体の働きは、30年程前に解明されました。
内因性カンナビノイドは6億年前から存在し、ヒトだけでなく下等生物を含めて殆どの生物に存在していますが、何故か昆虫には見られません。カンナビノイド受容体にはCB1とCB2が有り、CB1は主に中枢神経系や生殖器に存在します。痛みや体の動き、感情、嘔吐、痙攣等に関わります。CB2は精神系には働き掛けない受容体で、主に抹消神経に存在し、炎症や免疫系に関連しています。
脳の中でのCB1の発現は主に、侵害受容領域や小脳、大脳辺縁系、基底核、報酬経路で起こります。ただ、髄質呼吸中枢には極僅かしか分布しておらず、過剰摂取しても呼吸が止まる事は有りません。
カンナビノイドの効果は、消化器ではそれぞれの消化液によって効果が変わります。CB2は主に末梢の免疫調節受容体であり、痛みや炎症、生理学的変化に重要な役割を果たしています。
CB2アゴニストは肝臓疾患の治療として期待されていて、線維化や肝硬変に効果が有ると考えられています。又、免疫とは違った保護システムが有り、ダメージを受けた臓器への治療効果も報告されています。
CB1とCB2は皮膚にも存在し、CBDには抗炎症作用に加え、抗菌、殺菌作用が有ります。炎症を抑え、ニキビも治療してくれます。皮脂腺に働き掛け、細菌の活性化も抑制します。内因性カンナビノイドは心臓や骨にも関わっていて、骨折の治癒を促進する事が証明されていますので、将来的にはそうした薬が出来るかも知れません。
大麻は3000万年前にチベット高原で、ホップから分岐した事が分かっています。そして、人の移動と共にユーラシア大陸全体へ急速に広がり、古代から薬や食糧、繊維等として使われて来ました。
20世紀以降、世界中で大麻の使用が禁止されましたが、それには幾つかの理由が有ります。1つは、抽出物の投与量等が標準化されておらず、有効成分も特定されていなかった。又、安全性が明確に確立されていませんでした。しかし、大きな理由は政治的なもので、米国ではマリファナとして、大麻の使用が禁止される事になりました。現在、米国では規制物質法で厳しく規制されています。ですが、大麻は医療用として有用で、中毒性も無い。危険性だけが過剰に強調されています。日本では神道の神事で麻を使用します。敗戦後にGHQが禁止する前は医療用としても使われて来ました。
■地球上で最も栄養価の高い麻の実
植物性カンナビノイドは150種類以上確認されています。THCは頭痛等の痛みを和らげ、気管支を拡張する他、抗炎症作用や吐き気を抑える効果も有る。カリフォルニア州のソーク研究所によると、βアミロイドを除去する効果も有るとされ、アルツハイマー病への効果も期待出来ます。
CBDには痙縮を改善する効果が認められ、不安や統合失調症の症状を和らげると言われています。がん細胞に対し毒性が有る一方、正常細胞には害が無く、がんの1次治療に効果が有るとされますが、研究は始まったばかりです。脳卒中による後遺症も軽減出来るとも言われています。
カンナビゲロール(CBG)は、GABA取り込み阻害剤としての効果が高いと言われています。耐性のあるMRSAに対しても非常に効果が高い抗菌作用が有ると言われます。最近、CBGがヒトに及ぼす影響を体系的に調査する最初の研究が米国で行われました。結果を見ると、約30の殆どの症例で効果が認められました。特に効果が有ったのが疼痛で、睡眠障害や嘔吐、IBS、OA、関節症、鬱症状や不安にも効果が認められました。ただ、これは患者が自分で報告した結果です。
その後私達もランダム化試験を行い、CBGとプラセボを使い二重盲検で比較しました。不安症状が緩和されるかどうかを調べるものでしたが、統計学的に有意な結果が出ました。CGBは不安感やストレスを軽減し、更に言語記憶を強化する可能性がある事も分かりました。一方で運動機能の低下や酩酊感も無く、中毒症状に関してはプラセボと全く違いが有りませんでした。
テトラヒドロカンナビバリン(THCV)もよく知られています。食欲を抑制する為、肥満や2型糖尿病、メタボリックシンドロームに効果が有ると言われ、痙縮や発作、炎症への効果も期待出来ます。テトラヒドロカンナビノール酸(THCA)は炎症に対する非常に強い効果が有り、特にTNF-αによく効く事が分かりました。がんにも効果的な可能性が有ります。カンナビジオール酸(CBDA)ですが、非常に強力な薬剤で、セロトニン受容体を強く活性化します。特に嘔吐を抑える力が強く、不安にも効くと推測出来ます。
大麻の独特の香りはテルペノイドという成分によるもので、これ迄に200種以上が報告されています。その中には昆虫を撃退する芳香性モノテルペンや、苦みが有り動物に食べられるのを防ぐセスキテルペノイドが有ります。大麻のテルペノイドは頭痛や炎症に効き、気分を高める他、植物性カンナビロイドとの相乗効果も有ります。テルペノイドの内、β-ミルセンは鎮静効果が非常に強く、カウチに座って動く事が出来ないという意味で「カウチロック」と呼ばれる効果を生み出します。オピオイドの過剰摂取の治療にも役立ちます。α-ピネンはTHCの副作用である短期記憶障害を軽減します。マツ等、自然界に最も広く分布するテルペノイドで、森林浴の効果をもたらす成分だと考えられています。
更に古代から食用としてされて来た麻の実は、地球上で最も栄養価が高く、強い抗炎症作用が有ります。35%はタンパク質で、リノール酸等を多く含む健康的な油も含まれています。大麻の芽に含まれるカンフラビンAはPGE2に対し、アスピリンより30倍も強く活性化を阻害し、アスピリンとデキサメタゾンの中間の抗炎症力を示します。現在、私達はカンフラビンAを研究しており、副作用を最小限に抑えた炎症性疾患の治療に使えると考えています。
質疑応答
三木直子・一般社団法人GREEN ZONE JAPAN理事 日本では今年12月から大麻の規制が厳格化されますが、どう思われますか。
ルッソ THCを医療用に用いるには、絶対量が必要です。しかし、日本の規制ではこれを満たす事は出来ません。ハイな気分になる為の大麻と医療用の大麻は全く違います。そこを混同してはいけない。科学者が検証した結果を政治家も受け入れ、患者の為に大麻を使って頂きたい。
ハーン・カート・MM411 a division of Triumph and Wellness Asian Markets Managing Director アメリカと同じ様な事が日本でも起きており、闇市場で合成カンナビノイドが売られています。これについてはどう思われますか。
ルッソ 合成カンナビノイドが作られるのは、天然の大麻由来の製品を合法化していないからです。合成カンナビノイドは品質管理が行われていない事が多く、予想外の効果が出る事が有り、それが人に害を及ぼします。合成カンナビノイドは本来必要無いものなのです。
舩津到・医療法人社団三医会鶴川記念病院理事長 カンナビノイドは副反応が少ないから良いという話だったと思うのですが、ファーストラインで使われる医薬品になり得るのでしょうか。又、痛みの無い人が大麻由来の医薬品を服用するとどうなるのでしょうか。
ビリーバイキッジ 大麻由来の医薬品は、幅広い症状に有効で、私達は症状に合わせて医薬品を処方しています。医師が患者をしっかりモニタリングしてフォローすれば安全に使用出来ます。
ルッソ 症状の無い人が服用すればどうなるのか、という点ですが、摂取量にもよります。リラックスしたり、世界が違って見えたりする人もいるかも知れませんが、それは息抜きにカクテルを飲むのとそう変わりません。過剰摂取したとしても、他の多くの薬剤と同じ様に数時間経てば、その作用も消えます。
阿部泰隆・弁護士法人大龍代表 日本でも娯楽用の大麻の使用を認め、製造工程や販売方法を規制すれば良いと考えているのですが、そうすべきだと言う主張を裏付ける科学的根拠は有りますか。
ルッソ 全く同感です。アメリカでは、娯楽用の大麻を解禁した州で、むしろ若者の使用率が下がったという調査結果も有ります。大麻は医薬品だという意識が広がれば、多くの若者にとって魅力的なものではなくなる。日本でも、同じ事が起こるかも知れません。
ハーン・喜美恵・MM411 a division of Triumph and Wellness Asian Markets Director 私は毎日CBDを摂取しているのですが、高血圧の薬を服用している父が「CBDと血圧の薬の組み合わせは良くない」というのですが、本当でしょうか。
ルッソ 勿論その可能性は有りますが、一般的に大麻由来の医薬品は、他の医薬品と一緒に服用出来ます。免疫抑制剤等の一部の医薬品については、併用しない方が良いという意見も有ります。
ビリーバイキッジ 10年間、大麻を処方していますが、実際に併用による悪影響が出たという症例を見た事が有りません。勿論患者のモニタリングは必要ですが、少量で処方している限り、他の薬剤との併用に問題は無いと考えています。
髙野覚・医療法人社団明雄会本庄児玉病院理事長・院長 精神科の医療現場でも非常に有用で、自然由来の為、安全性も高い。早く医療現場で使える様になって欲しいと思います。日本で合法化されない理由は何だと思われますか。
ルッソ 一番大きな障壁はやはり知識の欠如です。これは批判では有りませんが、知識の無い政治家が法律を作っているのが現状です。大麻の合法化は複雑で難しい事は理解していますが、大麻は新薬ではなく、人類が太古から使い、効果も副作用もよく分かっているという事を知って欲しい。それだけで状況は大きく変わり、合法化に向けて進む事が出来るのではないかと思います。
井手口直子・帝京平成大学薬学部教授 微量カンナビノイドやテルペン、フラボノイド等が含まれたブロードスペクトラムとCBD単体のものでは、ブロードスペクトラムの方がアントラージュ効果でよく効くのでしょうか。
ルッソ アントラージュ効果のメリットは期待出来ると思います。やはり、自然そのままの植物全体を使った方が、効果が有り、安全性が高いと思います。勿論CBDを分離したものが必要な時が有りますし、法律上、分離しなければならない事も有ります。しかし、それが最適な解決策とは思いません。
土屋了介・公益財団法人ときわ会顧問 GHQが決めた事に、未だに金科玉条の如く政治家が従っているのはおかしい。政治家が医学の領域に口を挟み規制を強化する事には賛同出来ません。政治から医学を取り戻さなければならないと思います。
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