日本の医療の未来を考える会

第82回 マイナ保険証への信頼は高まるか 一本化と導入促進に向けた対策は

第82回 マイナ保険証への信頼は高まるか 一本化と導入促進に向けた対策は
いよいよ12月から、現行の紙やカードの保険証の新規発行が終わり、マイナンバーカードに紐付けられた「マイナ保険証」の本格運用が始まる。マイナンバーで保険証の情報を管理し、更に電子処方箋等の情報も一体化されれば、医療機関や薬局、患者にとって利便性が向上する筈だが、依然として運用への不安の声は消えない。又、機器導入は医療機関等にとって新たな費用負担にもなる。国はマイナ保険証の信頼性を高め、普及を促進する為に、どの様な対策を高じているのだろうか。本格運用を前に、マイナ保険証の現状や普及対策等について、厚生労働省の担当者3氏に講演して頂いた。

原田 義昭氏 「日本の医療の未来を考える会」最高顧問(元環境大臣、弁護士)マイナ保険証は立派なシステムですが、普及率は未だ低いと聞いています。目的に沿って活用される様、多くの医療機関や国民が正しくシステムを理解し、積極的に利用して欲しいと思っています。今は衆議院選挙の最中で、経済政策や外交、安全保障、福祉政策等の論戦が交わされていますが、国民の清い1票で立派な政権が発足する事を願っています。

尾尻 佳津典 「日本の医療の未来を考える会」代表(『集中』発行人)マイナカードは2016年から始まりました。本来、国民1人1人が必ず持つべきカードだと思いますが、抵抗感を持つ人が多く、中々浸透しないのが実状です。12月から現行の健康保険証の新規発行が終了し、私達もマイナ保険証か、紙の保険証かという選択肢が無くなります。是非とも安心安全で使い勝手の良い運用をして頂きたいと思います。

講演採録

■信頼と利便性の向上の為改良重ねる

講師:厚生労働省保健局医療介護連携政策課保険データ企画室 室長補佐 鈴木啓太

今年12月2日に現行の健康保険証の新規発行が終了し、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行します。現在、オンライン資格確認を導入している医療機関、薬局は96%超に達しました。

オンライン資格確認は、マイナカードを使って健康保険証の資格確認等を行うシステムです。現在、資格確認は健康保険証でも可能です。しかし、12月に現行の保険証の新規発行が停止され、既に発行されている保険証の有効期限が切れた後は、マイナ保険証か資格確認書による資格確認となります。マイナ保険証で資格確認を行うメリットとして、薬剤情報や診療情報に基づいた医療を受けられる、限度額適用認定証等を持っていなくても、限度額を超える支払いが免除される事が挙げられます。更に医療機関も事務負担の軽減が図れる。今後は電子処方箋、電子カルテの普及を目指し、マイナ保険証を介して連携出来る様にします。診察券や公費負担医療の受給証の一体化も必要です。又、意識の無い救急患者を診察するといった緊急時もマイナ保険証で過去の薬剤情報等を共有出来る様になります。将来的には、マイナ保険証をスマートフォンにも搭載出来る様にする予定です。

現在、全体のオンライン資格確認件数の内、マイナカードの利用率は9月末時点で13.87%に留まっています。又、マイナカードの保有者数は全人口の75.2%で、マイナ保険証の登録者はカード保有者の81.2%、全人口に対しては約6割です。カード保有者の約半数がカードを携行し、5人に2人がマイナ保険証を利用した事が有るというのが、現在の利用状況です。

利用促進を図る為に厚労省は、医療機関等に3つの取り組みを呼び掛けています。1つ目は窓口での声掛け、2つ目は利用を促すリーフレット等での説明、3つ目は分かり易い場所への顔認証付きカードリーダーの設置と案内ポスターの掲示です。マイナ保険証の利用率が向上した医療機関の取り組みを厚労省のホームページでも紹介しています。

マイナ保険証利用促進の為の医療機関への支援策も講じています。2023年10月から24年11月迄の何れかの月でマイナ保険証の月間利用件数が500件以上だった医療機関には、顔認証付カードリーダーの増設費用の一部を補助しています。23年11月以降に増設したカードリーダーが対象で、申請期限は25年1月15日です。

顔認証カードリーダーの画面操作が煩雑だという声も有った事から、操作画面の改善も進めています。これ迄は診療や健診に関する情報について、毎度提供に同意するかどうかを確認しなければならなかったのですが、限度額適用認定証情報の提供の同意は省略すると共に、医療情報の提供も包括同意出来る様にしました。既に10月からリリースしています。

他にも、よく起きる不具合の改修を進めています。主なものとしては、マイナ保険証で転居や転職で資格が変更になった際、マイナ保険証で「無効」と表示される問題が有りました。各医療保険の保険者には資格取得の届け出から5日以内のシステム登録を要請していますが、更に迅速化を図る為の改善計画の策定を求めています。

マイナカードの電子証明書の有効期限が切れると保険証として使用出来なくなる事から、有効期限3カ月前に、本人宛てに更新手続きの案内を送付しています。今年12月からは有効期限が満了した後も、3カ月間は引き続き資格確認出来る様にします。12月2日以降は、更新が無く一定期間経過した場合、保険者の職権で資格確認書を交付します。

医療機関に対しては、何らかの事情で資格確認が出来ない場合でも、過去の受診の際に確認した資格情報を用いるか、不詳レセプトという形で請求をする事で、3割等の適切な自己負担割合で支払請求する様、医療機関に対して対応を求めて参ります。

マイナンバーカードの利用が不安な理由として、安全性が挙げられています。しかし、写真付きの身分証で、他人のなりすましは出来ませんし、カードそのものに個人情報が入っている訳では有りません。マイナンバーの番号を知られただけで個人情報を盗まれる事も無く、万全のセキュリティ対策が施されています。又、データの紐付けの誤りも発生していましたが、登録済みデータ1億6000万件の全ての確認作業を終え、今年5月からは新規登録の際、全てのデータについて住民基本台帳とのシステムによる照合を行っています。

発熱外来など通常とは異なる場所で患者を受け付ける場合や、緊急入院や長期入院の際には、顔認証カードリーダーを使用出来ない事が有ります。薬局では、ドライブスルー方式での服薬指導を行っている為、カードリーダーが使い難い事も有ります。こうした時は居宅同意取得型というオンライン資格確認の方法が使えます。医療機関等が用意したモバイル端末か、患者のスマホ等から「マイナ在宅受付Web」へアクセスして頂き、マイナカードと4桁の暗証番号で同意登録すると、資格情報の取得が出来ます。

この居宅同意型の資格確認を行う医療機関や薬局に対しては、モバイル端末の購入やレセプトコンピューターの改修等に必要な費用を補助します。申請は、今年の11月から受付を開始しますが、補助額は病院、大型チェーン薬局、診療所・薬局で異なり、補助率は50〜75%、額は8万5000円から41万1000円となっています。

又、止むを得ない事情で、オンライン資格確認を導入出来ない医療機関や薬局に対しては期限付きの経過措置を設けていますが、12月2日以降、マイナカード保険証を持参した患者が資格確認出来ないといった事態を防ぐ為、限定型の簡素なオンライン資格確認の仕組みを導入出来る様にしました。この際の導入費用についても補助をします。

マイナ保険証に対し不安を感じる国民が一定程度いらっしゃる事は理解しており、マイナ保険証を持たない人には資格確認書を交付して対応します。又、現在の紙の保険証も有効期間は1年間有り、暫くはアナログとデジタルの保険証を併用しながら、マイナ保険証の普及を図って参ります。

■電子処方箋の普及に向けた取り組み

講師:厚生労働省医薬局総務課 電子処方箋サービス推進室 課長補佐 森田 和仁

電子処方箋は、現在、紙に印刷されている処方箋をオンライン資格確認等のシステムを使用し、デジタル運用する仕組みです。支払基金と国保中央会が電子処方箋管理サービスを行っていて、患者に処方や調剤をした情報を蓄積しています。そのデータは、重複投薬や併用禁忌のチェック等に使われます。

23年1月から運用していますが、運用に対する意見や要望を受けて、電子処方箋等検討ワーキンググループで、更なる機能の充実や運用ルールの見直し等について検討しています。過去6回開催して、リフィル処方箋に対応する機能の追加や、重複投薬等をチェックする際の口頭同意を認める改善等を行った他、院内処方の薬剤情報も速やかに他の医療機関で活用出来る様にする対応等も進めています。院内処方情報への対応は、25年1月以降に検証を実施した上で、運用を開始する予定です。

更に電子処方箋管理サービスの機能を拡充させ、重複投薬等チェックとして、併用注意のアラートの表示や、薬局に処方箋を事前に送付した患者の利便性を高める改良を検討しています。

医療機関への電子処方箋の普及は当初の想定まで進んでいないのが実状ですが、導入が進んでいる地域でアンケートを実施したところ、「医療の質が向上した」との回答が約84%を占めました。重複投薬チェックの手間や紙の削減、事務作業の軽減にメリットを感じている人が多い様です。又、患者本人が「他に飲んでいる薬は無い」と言っていたものの、実際は重複する薬を別の医療機関で処方されていた事を薬局でチェック出来たというケースも少なくありません。厚労省のホームページで、導入事例やプレアボイドに繋がったケース等の好事例を紹介しています。

電子処方箋を利用した事が有る患者へのアンケートでも、92%が「よく行く医療機関や薬局でも使用したい」と答えています。メリットとして「飲み合わせの悪い処方を防げる」等を挙げています。

10月13日時点で電子処方箋を導入しているのは、全国で3万6104施設、全体の17.1%を占めます。病院2.2%、医科診療所5.9%、歯科診療所0.5%と医療機関等では低く、薬局では51.3%と漸く半数を超えたところです。特に店舗数の多い薬局で導入が進んでおり、店舗数の少ない薬局でも3分の1以上で運用を開始しています。

薬局で普及が進んでいる理由は、これ迄患者の記憶に頼る部分が大きかった薬剤情報が、データとして確認出来る事が挙げられます。又、電子処方箋を利用する様になれば、紙で受け取った処方箋の内容をシステムに入力する手間も省けます。

電子処方箋の普及を図る為、昨年11月、厚労相が公的病院に対し、率先して導入する様に要請しました。旧国立病院など厚労省所管の病院では、24年度中に7割が電子処方箋を導入する予定です。今年7月からはデジタル庁のホームページで、電子処方箋の導入状況を都道府県別や施設別等で公表しています。厚労省では普及に向け、阻害要因の洗い出しと対策の検討を進めています。やはり、導入を躊躇う大きな理由は費用負担である為、補助金の拡充や診療報酬での加算を進めています。国の補助だけでなく、都道府県が補助を行う場合も、厚労省が都道府県に補助金を交付しています。

■診療報酬の加算を見直し

講師:厚生労働省保険局医療課 課長補佐 富澤 直嗣

マイナ保険証の本格運用に伴い、医療情報取得加算と医療DX推進体制整備加算について今年7月の中央社会保険医療協議会で見直しの議論が行われました。医療DX推進体制整備加算については今年10月から、医療情報取得加算は12月から内容を一部改めます。

医療情報取得加算は、オンライン資格確認を通じた患者の薬剤情報や特定健診情報の活用を促すもので、現在は、マイナ保険証を使って患者の診療情報を取得した場合とそれ以外の場合とで点数が異なっています。しかし、12月からはマイナ保険証の有無に拘わらず、施設基準を満たすと、1点を加算します。従来は、マイナ保険証を利用しなかった場合は初診時に3点、再診時に2点、調剤時に3点となっていました。調剤点数はこれ迄6カ月に1回の算定でしたが、今後は12カ月に1回となります。

医療DX推進体制整備加算は、質の高い医療を提供する為に医療DXに対応する体制を確保している医療機関や薬局に点数を加算するものです。

新たにマイナ保険証利用率等によって加算1、加算2、加算3と3段階の点数を設定し、施設要件も一部変更しました。利用率が最も低い加算3は従来の加算額と変わらず、医科8点、歯科6点、調剤4点で、そこに加算1は3点、加算2は2点がプラスされます。

それぞれの利用率は24年10月から12月迄は加算1が15%以上、加算2が10%以上、加算3が5%で、25年1月から3月迄は、それぞれ30%以上、20%以上、10%以上に引き上げます。25年4月以降の利用率は24年末を目途に検討を進め決定します。

利用率は基本的に「マイナ保険証の利用者数の合計÷レセプト枚数」で計算され、前月から3カ月前迄の3カ月間での最高値が実績となります。各月の利用率は、支払基金からの通知や医療機関等向け総合ポータルサイトで確認が可能です。

又、この加算が受けられる医療機関には施設基準が有り、オンライン請求を行っていて、医師や薬剤師等が診療情報を活用出来る体制を整えている事等が条件とされています。新たに「マイナポータルの医療情報等に基づき、患者からの健康管理に係る相談に応じる」との項目も加えられました。来年4月からは電子処方箋を扱える体制、10月からは電子カルテ情報共有サービスを活用出来る体制も求められる様になります。

質疑応答

村上明日香 オレンジ歯科院長 訪問診療の場合、患者の下にカードリーダーを持って行くのは難しく、持って行く事が出来たとしても、必要な台数を揃えるのは大変です。どの様に対応すればよいのでしょうか。

鈴木 居宅同意取得型のオンライン資格確認であれば、モバイル端末で対応出来、元々訪問診療も想定している為、是非活用頂きたい。又、そうした懸念が生じない様、私達も更に制度の周知を図って行きたいと思います。

房広治 GVE株式会社代表取締役 量子コンピューターの発達によって2030年頃には現在のインターネット上のセキュリティに用いられるPKI(公開鍵暗号基盤)は破られてしまうと言われています。今後のセキュリティについてどう考えていますか。

森田 マイナカード自体のセキュリティは、国家資格の紐付けを含め、デジタル庁を中心に検討や対策を進めていると認識しています。厚労省の立場からは明確な事は言えませんが、頂いた意見を参考に、関係部局と検討を進めて行きます。

宮本隆司 社会福祉法人児玉新生会児玉経堂病院院長 マイナカードの所持が義務化されていない以上、医療機関がマイナ保険証を推奨しても限界が有る。実際に高齢者の中には、持っていないという人が多い。マイナカードの義務化が先ではないでしょうか。

鈴木 マイナカードの普及については、取得の際のサポート等、主に総務省で進めています。厚労省としてはマイナカードが義務化されていなくても、国民皆保険を維持出来る様、マイナカードを持っていない人にも資格確認書を職権で交付する等の対応を行います。義務化の議論については意見を述べる立場ではありませんが、今後もマイナ保険証のメリットを周知する事で普及に努めて参ります。

荏原太 医療法人すこやか高田中央病院糖尿病・代謝内科診療部長、教育企画管理部長 マイナ保険証の制度を構築するに当たって、参考にした海外のシステム等は有るのでしょうか。海外ではシステムの安全性を確保する為に、国が電子カルテ等の共通の電子化システムを開発し、それを医療機関や薬局が導入していますが、同じ事を日本でも出来ないのでしょうか。

森田 韓国やデンマーク等のシステムも参考にしながら、日本の医療制度に合ったシステム開発と制度設計を進めています。共通のシステムが必要ではないかと指摘も認識しながら、今後もシステムや制度の在り方について、議論や検討を進めて行きます。

落合慈之 NTT東日本関東病院名誉院長 ジェネリック医薬品を推奨した結果、医薬品の偏在、不足といった問題が起きていますが、マイナ保険証や電子処方箋が普及すれば、こうした問題も解決するのでしょうか。又、診療報酬の加算の要件として、「マイナポータルの医療情報に基づく相談に応じる」と加えられましたが、相談にはどの様に対応するのでしょうか。

森田 ジェネリック等の薬剤不足に対し、電子処方箋が直接の解決策となる訳ではありません。しかし、今後の方向性として、マイナ保険証や電子処方箋が100%導入されれば、薬剤需要等のリアルな情報を把握して、対処出来る様になると考えています。

富澤 健康管理に関する相談については、診察時に患者本人がスマートフォンでマイナポータルの画面を開いたり、自宅で予めスクリーンショットやプリントアウトしたりしておいたものを医師に見せるという形を想定しています。加算の要件としては、あくまで患者から相談された場合に、応じられる体制を整えておくという事です。

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